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「三びきのこぶた」について
「三匹のこぶた」は、イギリスの代表的な民話のひとつです。イギリスの民話研究家であったジョーセフ・ジェイコブス、ジョージ・ダグラス、アンドルー・ラングといった人たちは、民話を再録したことで知られています。なかでも、ジョーセフ・ジェイコブスの業績は忘れてはならないものです。
ジェイコブスは、1854年にオーストラリアに生まれ、その生涯の大部分をイギリスで過ごしました。彼が1890年と1894年に出版した2冊の『イギリス民話集』は、イングランド(大ブリテン島の南部地方)の民話の核をなすものとして高く評価されています。さらに、ジェイコブスの死後26年経った1942年、彼の2冊87編の民話から60編を選んで1冊にした民話集が出版されるにいたり、巷間に流布したのです。
さて、「三匹のこぶた」の話は、腹黒い狼と、か弱いこれから社会に出ようとするこぶたとの知恵合戦ともいうべきものです。1番目と2番目のこぶたはそれぞれ、麦藁と薪という安直な材料でみるまに家を造ってしまいますが、3番目のこぶたは、手間のかかるレンガを選んで頑丈な家を建てます。結果は本文のとおり、2匹のこぶたは狼に食べられてしまいます。次は3番目のこぶたの番です。こぶたは狼に甘い言葉で誘惑されますが、その都度知恵を働かせて苦難を逃れ、ついには狼を煮て食べてしまうという痛快な話です。これは、勇猛なノルマン民族の侵入で生活を脅かされていた時代の、イングランドの人々の心情を反映した話ともいえましょう。
ところが、日本で紹介されている本のなかに、こぶたが狼に食べられるのは残酷すぎるとして、狼と仲直りするといった原話を著しく歪めた改作が多いのは残念なことです。
(白川千鶴子)
ぶん:しらかわ ちづこ
え:ひらの ていいち
画材:石こう・透明水彩
編集プロデュース:酒井義夫
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あるところに、三びきの こぶたの きょうだいが いました。 あるひ、おかあさんが こぶたたちに いいました。 「みんなが おおきくなったので、 うちのなかが せまくなってしまいました。 さあ きょうから、じぶんたちの ちからで うちを たてて くらしましょうね。 おおかみに つかまらないように きをつけるのですよ。」
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「はあーい!」 三びきの こぶたは げんきよく へんじをして、すみなれた うちを でていきました。 こぶたたちは、ひろい せかいに でられたので、うれしくてなりません。 ちょうど そこに、むぎわらを かついだひとが やってきました。 「おじさん、その むぎわらを わけてくれませんか? うちを つくりたいんです。」 一ばんめの こぶたが いいました。 「ああ、いいとも。」 おじさんは、こころよく むぎわらを わけてくれました。
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一ばんめの こぶたは、 やまの ふもとに むぎわらの うちを たてました。 むぎわらの うちは、あたたかくて いいきもちです。 「へっ! どんなもんだい。 もう おおかみなんか こわいものか!」 一ばんめの こぶたは おおとくいです。 「ぼくらは、もっと じょうぶな うちを つくるよ。 それじゃ さようなら。」 ニばんめと 三ばんめの こぶたが いいました。
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ニひきの こぶたが あるいていると、たきぎを せおった ひとに であいました。 「おじさん、その たきぎを わけてくれませんか? うちを たてたいんです。」 ニばんめの こぶたが たのみました。 「ああ、いいとも。」 おじさんは、こころよく たきぎを わけてくれました。
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ニばんめの こぶたは おかの うえに きの うちを たてました。 「どうだい、きれいな うちだろう。 もう、おおかみが きても あんしんさ。 おまえも、はやく うちを たてるといいよ。」 ニばんめの こぶたは、ごきげんです。 「ぼくは、もっと じょうぶな うちを つくるよ。」 三ばんめの こぶたは そういって わかれました。
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三ばんめの こぶたが あるいていると、れんがを もった ひとに あいました。 「もしもし、おじさん。ぼくに れんがを わけてくれませんか? うちを つくりたいんです。」 「れんがの うちを つくるなんて、たいへんだよ。 ひとりで つくる つもりかね?」 「はい。ぼく、いっしょうけんめい つくりますから おねがいします!」 こぶたは、おじさんから れんがを わけて もらいました。
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三ばんめの こぶたは、れんがを ひとつひとつ つんで、うちを つくりはじめました。 れんがの うちは、なかなか できあがりません。 でも こぶたは、くたびれても やすまないで がんばりました。 そして とうとう、じょうぶで りっぱなうちが できあがりました。
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そのころ、一ばんめの こぶたの わらのうちに、おおかみが やってきました。 「こぶたさん、いい うちを つくったね。 ちょっと なかに いれておくれよ。」 「だめだよ、おおかみに きをつけなさいって、おかあさんが いったんだもの。」 こぶたは とを おさえました。
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「あけない つもりだな。 それじゃ、こんな わらの うちなんか ふきとばしてやる!」 おおかみは あらあらしく こういうと、 ぷうーっ! ものすごい いきを ふきつけました。 すると、わらの いえは いっぺんに ふきとんでしまいました。 かわいそうに 一ばんめの こぶたは、おおかみに たべられてしまいました。
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つぎのひ おおかみは、ニばんめの こぶたの うちに やってきました。 「こぶたさん、そとで あそびませんか。 こんなに てんきが いいのに うちにいるなんて、 もったいないですよ。」 おおかみは、やさしく いいました。 「いやだよ。 おまえなんかに だまされないぞ!」 こぶたは、とを かたく しめました。
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「なんだい、こんな うち ひとふきだ!」 おこった おおかみは、いきを すいこみ、 ぷうーっ、ぷうーっ、ぷうーっ! と ふきました。 すると、きで つくった うちは、ばらばらに ふきとんでしまいました。 かわいそうに ニばんめの こぶたも、おおかみに たべられてしまいました。
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あじを しめた おおかみは、三ばんめの こぶたの、れんがの うちに やってきました。 おおかみが まどから のぞくと、こぶたは ごはんを たべているところです。 <それにしても、まるまる ふとった うまそうな こぶただ。> おおかみは、ごくりと のどを ならしました。
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「こぶたさん、すてきな うちを つくりましたね。ちょっと なかを みせてくれませんか。」 「いやだよ、ぼくは いま ごはんを たべているんだから。」 こぶたは、おおかみの さそいに のりません。 「いれないのか。それじゃ、こんな うち ふきとばしてやる!」 ぷうーっ、ぷうーっ、ぷうーっ……! おおかみは ちからいっぱい、なんども いきを ふきつけました。 でも、じょうぶな れんがの うちは、びくともしません。 おおかみは、すっかり くたびれてしまいました。
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<こいつは てごわいぞ。 さくせんを かえるとするか。> おおかみは やさしく とを たたきました。 「こぶたさん、きみと ともだちに なりたいんだよ。 なかなおりの しるしに、おかの むこうの かぶばたけに あんないするよ。 あしたの あさ 六じに むかえにくるからね。」 「それは ありがとう。」
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つぎのひの あさ 五じに、こぶたは もう かぶばたけに きていました。 おおかみが じぶんを たべる つもりなのを しっていたので、一じかん はやく やってきたのです。 「これは おいしそうな かぶだ。」 かぶを とると、こぶたは おおいそぎで うちに もどりました。
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六じに、おおかみが むかえに きました。 「やあ、おおかみさん。 ぼくね、はやく めが さめたものだから、もう はたけに いって かぶを とってきたんだ。いま、おなべで にているよ。 おいしそうだろう。」 おおかみは、こぶたが すましていうので はらが たちました。 でも、それを じっと がまんして、 「ざんねんだなあ。 それじゃあ あしたの あさ、こうえんの そばの りんごばたけに いこうよ。 五じに むかえに くるからね。」 と いいました。
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さて つぎのひも、こぶたは やくそくを まもりませんでした。 四じに、りんごばたけに きたのです。 りんごが、たくさん なっていました。 こぶたは きに のぼって、 おなかいっぱい りんごを たべました。 ところが、おりようとしたとき、おおかみが やってきたのです。 「こぶたさん、ずるいな。 ぼくも のぼっていくからね。」 おおかみが きの したから さけんだので、こぶたは びっくりしました。
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「おおかみさん!」 こぶたは、とっさに こういいました。 「わざわざ のぼってこなくても、ぼくが おいしい りんごを なげてあげますよ。」 こぶたは、りんごを ひとつ とると、おもいきり とおくに なげました。 おおかみは、ころころ ころがる りんごの あとを おいかけていきます。 <しめた、いまだ!> こぶたは いそいで きから おりると、あとも みずに にげだしました。
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おおかみは、まだ あきらめません。 つぎのひも、こぶたを たずねました。 「きょうは、むらの おまつりですよ。いっしょに いって、たのしく あそびましょう。」 「それは うれしいなあ。」 「じゃあ、三じになったら むかえにきますから、こんどは かならず まっていてくださいよ。」 そういうと、おおかみは かえっていきました。
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こぶたは 一じに なると、おまつりに でかけました。 かいてんもくばに のったり、みせものごやに はいったり、おもうぞんぶん たのしみました。 ところが、こぶたが バターを つくるたるを かって かえってくると、むこうから おおかみが くるのです。 <たいへんだ!> こぶたは、あわてて たるの なかに かくれました。
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たるは、こぶたを いれたまま ごろごろ さかみちを ころがり、おおかみに ものすごい はやさで ぶつかったのです。 「ひゃあーっ!」 おおかみは、あっというまに はねとばされてしまいました。 それで、おおかみは むちゅうで にげていきました。
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つぎのひ、おおかみは こぶたの うちに やってきました。 「こぶたさん、ごめんね。 きのう ぼくは、おまつりに いけなかったんだ。さかみちを あるいていたら、まるい おおきなものが ぶつかってきてね。 ほら、ごらんよ。こんなに きずだらけだろう。」 「ころがってきたのは、この たるじゃなかったですか。」 「あっ、それだ!」 「はははは、ぼくが なかに はいっていたんですよ。」 こぶたは、おなかを かかえて わらいました。
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「この こぶため! もう ゆるせない。どうするか みていろ!」 おおかみは、とうとう きばを むいて おこりだしました。 こぶたが まどから のぞくと、おおかみが えんとつから うちに はいろうとしています。 こぶたは、すぐに だんろに おおきななべを かけると、たきぎを どんどん もやしました。
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そんなこととは しらない おおかみは、えんとつから おりてきます。 「にくい こぶため! すぐに たべてやるぞ!」 おおごえで さけびながら とびおりたから たまりません。 「ぎゃあ!」 おおかみは、ぐらぐら にたった なべのなかに おちました。 そして とうとう、おおかみは そのまま しんでしまいました。 こぶたは、おおかみを ゆうごはんの おかずにして たべてしまいました。